少し前の話になりますが、1月7日(土)の午後に先代の貴志雅樹が設計した住宅を訪問させていただく機会に恵まれました。
弊社の連絡先の管理が悪く反省するばかりなのですが、一昨年に先代が亡くなった際には設計を依頼してくださった全ての方にご連絡することができませんでした。
この住宅にお住まいのお施主様にもこちらからお伝えすることができていなかったのですが、偶然ホームページをご覧いただいてお電話をいただいたのがきっかけとなり、この日が実現したのでした。
不義理をしておりましたのに、ぜひ家族一緒にと誘っていただき、母、妻、息子とともに4人で伺うことができました。
建物は鉄筋コンクリート造の2階建で、外観はコンクリート打ち放しです。
1984年の竣工ですから築30年以上になりますが、愛情を持って大切に住んでくださっていることを感じ、大変嬉しかったです。
リビングのソファーに座ってお話しさせていただいたのですが、上部の吹き抜けを通して家族の居場所がつながる心地よい空間でした。
また、竣工時の写真や披露パーティーのときに撮られたものなど、大切に保管されていた写真を見せていただいたり、お家のなかをご案内いただいたりと幸せな時間を過ごさせていただきました。
私だけでなく、家族にとっても貴志雅樹の仕事に触れられる貴重な時間になったようです。
さて、貴志雅樹はこの住宅を発表した雑誌(住宅建築1985年3月号)のなかで「多次元統辞の家」というタイトルの文章を書いています。
彼は、建築の形態が多様化するのに対し、その構成方法は機能から抜け出せずに一元的なままであると当時の状況を捉え、そこから逃れるための具体的な方法としての「多次元統辞法」を次のように定義しています。
多次元統辞法とは、多様性に対応するために形態が多様化したように、建築の構成法も多様な脈絡に合せて多次元で対応させ、数種類の構成法を一つの建物の中で採用するという方法である。
そして、多次元の構成方法にまで発展していないとしながらも、二種類の構成方法を異なった次元で創り出して一体化したものであるとして、この統辞法の具体例としてこの建築を説明しています。
コンクリート打放しのラーメン構造と壁式構造で構成する。ラーメン構造は、空も含めた外部のエレメントを、梁・柱のフレームで切り取り内部に引き入れる装置とし、フレーム間の間仕切壁は、ガラスを用い、内外空間の一体化をはかる。このフレームを敷地にセットした後に、フレームを囲む形で壁を建ててゆき、機能的に必要な空間を確保してゆく。また壁構造の壁は、外部に対応する表情をもたせるため、内部との関係性をできるだけ希薄にし、四面を異質な様相にした。
この建築が竣工したとき、先代の貴志雅樹は35歳。
奇しくも、息子である私も現在35歳です。
父のように自身の設計を通して何かを発信することはまだできていませんが、このような恵まれた環境にいることに感謝し、この日のような体験をしっかりと設計をするうえでの糧としていきたいと思います。
ご招待くださったお施主様に心よりお礼を申し上げます。
本当に有難うございました。
貴志 泰正