「作品」という言葉があります。
建築家にとっては自身が設計した建築を指す言葉なのでしょうが、自邸などの自身が所有する建築でないかぎりは、その建築の所有者は建築家とは異なる他者(依頼者)です。
依頼者が費用を投じ、施工者によってつくられた建築を建築家自身の「作品」と呼んでよいものかは意見の分かれるところです。
私も自身が設計したものを「作品」と呼ぶことを気恥ずかしく、また、おこがましく感じ、この言葉をあまり使わないようにしている気がします。
(「建築家」という言葉も同様です。)
とは言いながら、代用できる言葉があまりないからか、「作品展」や「作品集」といった言葉は無意識に使ってしまっているような矛盾も感じています。
さて、なぜこのようなことを考えたかと申しますと、きっかけは私事でして…。
妻が幼稚園に息子(5歳)を迎えにいくと珍しく泣きだしそうな顔で抱きつかれたそうで、制作した「作品」が壊れてしまったのが原因だったようです。
私がその話を聞いて感じたのは、息子の「作品」に対する思い入れの強さです。
建築家・設計者が自身が設計した建築を「作品」と呼ぶかどうかは別としまして、「建築は他者のものであるという謙虚さ」と「建築は自身の表現の成果であるという強い思い」の両方を合わせ持つことが大切なのかなと教えられた気がします。
貴志 泰正